中古住宅を購入する前に住宅診断(ホームインスペクション)を利用する人は本当に増えたものです。10年前であれば、その存在を知る人は不動産業界でも少数派でしたが、今では住宅診断を知らないという業界人がいれば極端に不勉強な人だと言ってよいでしょう(そんな人はいない?)。
ただ、住宅診断に対する不動産業者の抵抗感は強く、如何にして買主に住宅診断の利用を思いとどませるか考えている営業マンは少なくありません。
今回のコラムは、購入前に住宅診断の利用を検討している人が読んでおけば、不動産業者の本音や事情、さらには関係法規のことまでわかった上で購入判断や住宅診断の利用の仕方を検討することができます。
1.不動産業者は売買契約前の中古住宅診断に抵抗する
不動産業者のなかには、まだまだ中古住宅の売買に際して買主が住宅診断(ホームインスペクション)を利用することに対して拒否反応を示すケースは少なくありません。完全に拒否することは少ないですが、嫌がっていることを買主は感じることが多いようです。
なぜ、不動産業者が嫌がるのか、抵抗感を示してしまうのか、業者の立場で本音や事情を見ていきましょう。
1-1.不動産業者は購入中止が怖い
不動産業者の立場で買主が利用する住宅診断のことを考えると、せっかく購入に前向きな買主が購入をやめてしまう可能性のある危険なものです。物件を仲介する不動産業者は、取引が成立しないと報酬を得られないため、取引の障害になりそうなものをできるだけ排除したいと考えます。
住宅診断によって、もし悪いところが見つかってしまえば、買ってもらえなくなるということを考えているのです。買主とすれば、そのような購入判断に影響を与えるような重要な情報こそ欲しいものですが、不動産業者としては提供したくない建物に関する情報になっているのです。
1-2.不動産業者は先に他業者が売るのが怖い
売買契約前に買主が住宅診断を利用する場合、売買契約日がその分、遅れてしまいます。診断の実施は半日もあれば十分ですが、日程調整や診断後の検討のための日数が必要ですから、前向きに購入検討してからすぐに契約とはならないわけです。
不動産業者としては、住宅診断の段取りをしている間に、他の不動産業者が先にその物件を売却してしまうことを強く警戒しています。これは、買主の立場でも同じことが言え、基本的には買いたいと考えている物件ですから、先に他の人が買ってしまうと困りますね。
これを防ぐ1つの手段としては、購入申し込みをしておいて、その申込後、売買契約の前までに住宅診断を利用するという方法があります。購入申し込みで購入の優先権を抑えておくわけです。但し、これには売主が難色を示すこともあります。まだ、確実に買ってもらえるとわからない人のために優先順位を抑えられることを嫌がることがあるのです。
1-3.全ての不動産業者が同一ではない
住宅診断に対して抵抗感を示すものの、ほとんどの不動産業者が売主との間で診断の受け入れのために交渉等をしてくれます。売主の多くは拒否することはありませんので、多くの場合は問題なく利用できるでしょう。
ただ、不動産業者にもいろいろあり、住宅診断を自社の息のかかった会社でのみ受け入れできることとして、そちらの利用を誘導したり、住宅診断よりも簡易的なことまでしか確認しない瑕疵保険の利用で済ませようとしたりします。
いろいろな不動産業者がありますから、買主は慎重に吟味する必要があるでしょう。
2.中古物件の住宅診断(ホームインスペクション)の告知が義務化
不動産業者のなかには、住宅診断に対して抵抗を示す会社があることは前述の通りですが、実は不動産業者が今すぐにでもそのような対応を改めなければならないところまできています。それが、住宅診断の告知義務です。
2-1.住宅診断(ホームインスペクション)の告知義務とは?
2016年5月に宅地建物取引業法の一部改正が決まりました。その改正内容のなかに、不動産業者に以下のことを義務付けることが含まれています。
媒介契約の締結に際して住宅診断(ホームインスペクション)業者の斡旋に関することを記載した書面を交付すること
買主に対して住宅診断(ホームインスペクション)の結果の概要等を重要事項として説明すること
売買契約の成立に際して建物の状況について当事者双方が確認した事項を書面で交付すること
もっと簡単にいえば、不動産業者は売主や買主に対して住宅診断(ホームインスペクション)というサービスがあることを説明して利用するかどうか確認しなければならないわけです。不動産業者の方から、利用するかどうか売主と買主に聞くことが義務付けられているものです。
そして、住宅診断していた物件であるならば、その結果を買主に示して重要事項として説明しなければならないのです。これは大事なことです。
2-2.告知義務は売買契約の前である
ちなみに、この告知は媒介契約や重要事項説明のときに実施しなければならないので、売買契約を締結する前のことです。契約前に売主と買主にきちんと住宅診断のことを説明しなさいよ、と国が決められたわけです。
2-3.告知義務の施行は2018年4月から
この告知義務が施行されるのは、2018年4月の予定です。この記事の執筆時点(2017年4月)ではまだ施行されておりませんが、もうすぐ施行されるものですから、これに合わせて前もって住宅診断を当事者へ説明する業者もあります。
今では抵抗を示している不動産業者も、自ら説明が義務付けられているわけですから、拒否する方向に動くわけにもいきません。これから、不動産業業界も変わらざるを得ないでしょう。
3.国交省も後押しする中古住宅診断
中古住宅の流通量を増やすことなどを目的にして国交省が取り組んできたことの1つが、前述した不動産業者へ課された住宅診断の告知義務です。国が住宅診断(ホームインスペクション)の利用を後押ししている状況ですから、買主は売主や不動産業者に対して遠慮しすぎずに堂々と利用を主張してよいものです。
さらに、もう数年すれば、購入申し込み~売買契約の流れのなかのどこで住宅診断を利用すべきか検討され、その仕組みも整備されてくるのではないでしょうか。今はまだそこまでの話ではありませんから、買主も購入の流れや状況をみながら利用するタイミングを検討してください。
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