2000年以降、徐々に日本でも浸透してきた住宅診断(ホームインスペクション)ですが、今では当たり前のように利用されるようになりました。しかし、利用のされた方にも変化が見られます。今回のコラムでは、今起こりつつある住宅診断業界の兆候をお話します。
1.買主の住宅診断(ホームインスペクション)
住宅診断(ホームインスペクション)などの住宅購入者向けコンサルティングサービスを行うアネストが生まれた2003年時点では、まだ住宅診断を行う会社はほとんどなく、ホームインスペクションという言葉も使われていませんでした。
その後、徐々に住宅診断が利用されるようになっていったのですが、その利用者(=依頼者)は買主です。買主が自分の買う家の建物の施工状況や劣化状態を知り、購入判断や補修・リフォームなどの参考にすることを目的として依頼しているのです。
買主にとっては、大きな買い物をするわけですから、リスクヘッジという意味でも当然の選択肢だと言えるでしょう。住宅という大きな買い物、さらには長い期間の住宅ローンの支払いのことを思えば、5~15万円程度(利用するサービスによって異なる)の投資は高くないと考えられ、自然と普及していったのです。
2.売主の住宅診断(ホームインスペクション)
買主による住宅診断の普及が進む中で、中古住宅では売主による依頼も増えるようになりました。売主が依頼する目的は、「有利な条件で売りたい」「早期に売りたい」「売却した後の瑕疵担保責任の追求リスクを抑えたい」とったものです。
しかし、売主による依頼はそれほど多くありませんでした。それが、この1~2年で大きく変化したのです。
今では、売主向けインスペクション業者が増えました。そういった業者は不動産会社と提携することで売主(顧客)を紹介してもらうようになり、「売却を有利に進められるから」という理由で普及が急激に進み、売主による住宅診断が本当に多くなりました。
2018年4月からは、宅建業法の改正に伴って不動産会社から売主にインスペクションのことを積極的に説明したうえで売主向けインスペクション業者を斡旋するようになったため、より一層に売主によるインスペクションが増えました。
3.徐々に増える同一物件の売主・買主のダブル・ホームインスペクション
上に記述したように、中古住宅の売買に際しては、買主も売主も住宅診断(ホームインスペクション)を利用するようになったわけですが、買主が依頼する前に売主が既にインスペクションを実施済みという物件も非常に多いわけです。
そういった物件では、買主が「売主の方でホームインスペクションを実施済みだから、買主まで依頼する必要がないか」と考える人がほとんどでした。
不動産会社からは、売主が先にインスペクション実施していて、大きな問題はなかったとざっくりとした説明を受けることになるのですが、買主も費用をかけなくてすむなら、その方がよいと考えるわけです。
しかし、最近になって買主側も売主とは別に自ら依頼して利用するケースも増えてきました。
その理由は、売主が依頼する(または不動産会社が斡旋する)住宅診断が、買主にとって本当はあまり参考になっていないという事実がわかってきたからです。
参考にならないどころか、事実を誤認させられるケースも多く、買主にとって不利益になることもあるくらいです。
このことは、「既存住宅状況調査方法基準で買主は中古住宅購入に失敗する」が参考になるのでご覧ください。
売主は売りやすくするために、買主は買うときの参考にするために住宅診断を利用するわけですが、それぞれの利害が対立している以上、それぞれが依頼するのは自然の流れなのかもしれません。
たとえば、訴訟するときにはお互いが各々の弁護士に依頼しますよね。お互いが同じ弁護士に依頼するということはありえないですし、できないわけです。5年後、10年後は売主と買主のダブル・ホームインスペクションが一般化しているかもしれませんね。